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『こわれゆく世界の中で』
サンプルDVDを自宅で発掘したので鑑賞。
ウィル(ジュード・ロウ)とリヴ(ロビン・ライト・ペン)は10年連れ添っていながらも、籍は入れておらず、関係は「恋人」の状態。リヴの連れ子である娘ビーは問題を抱えており、二人を悩ますものの、リヴとビーには絶対的な「親子」関係があり、ウィルは常に疎外感を感じている。(彼女たちが親子でなくとも、父親は家庭の中で孤立しがちですね) 豊かな生活を送りながらも、両者は心は満たされないまま。そんな生活の中、ウィルがロンドンのキングス・クロスに構えたばかりのオフィスに窃盗事件が起きます。
犯人である少年の母親アミラ(ジュリエット・ビノシュ)と接近したウィルは彼女がボスニア移民で夫を亡くした未亡人だと知るうち次第に惹かれていく、というわけ。正直、この映画を単純な不倫モノだと片づける人は映画を見るセンスがない人だと思っていいでしょう。よくひとつの大事件が起こるまでには30ほどの小事件が背景にある、と言いますが、同様に結果として「不倫」になるまでの、積み重ねがあるため、誰が責められるものではないのです。ロビン・ライト・ペン清らかな美しさもあって、リヴに肩入れをしそうになるものの、彼女もまたスウェーデンで夫を捨てウィルとの愛を選択した身であるため、立場は難しい。
夫婦関係が壊れていく様を、よく『歯車』がズレてゆく比喩表現を用いますね。使い古されているため、こんな言葉をいまどき使う小説家は文才がないと言い切りたいのですが、やっぱりこの表現は上手く当てはまっています。そして、この映画は自然なスクリプトの中で、問題を抱える夫婦に生じる「歯車」のズレが浮き彫りになる様子を見事に表しています。相手に対する苛立ちというものは、自分が予想した行動や返答、表情に反していると、溜まっていくのではないかと思います。特に夫婦や長年の恋人(などの潤滑油が限りなく使い果たされた関係)ともなると、相手を知り尽くしていると思い込みがちなので、予想外な行動は精神的な負担となって積もっていくものなのでしょう。
ラスト前の車のシーンで、私は「それでいいの?」と不安がよぎってしまったけど、リヴの爆発した怒りとやっと聞くことが出来た本音にかなり助けられました。二人が本当に向き合って言葉をぶつけ合うシーンはどこか美しかった。
ただ残念ながら、私のジュリエット・ビノシュ像は「貞淑で孤独な女性」というよりも「不倫しそうな女」といった感じだったため、彼女がどうも計算高く見える部分は作品の格を落としていると思います。ただ、彼女を大きく助けたのは息子役の少年。父性を求めながらも犯罪に利用される彼の痛々しい役柄を自然に演じているんです。彼の印象は強かった。ラフィ・ガヴノンという子らしい、スタントも自らこなしてるらしい!! すごい!!
アンソニー・ミンゲラはジュード・ロウとすごく相性のいい監督だと思っています。プロデュース作品を含めてミンゲラ作品は全て見ていますが、彼が撮るものは、「愛」の純粋な部分を抽出したものが多いうえに、今回のように「都市」で描かれるものは珍しいので、今作は彼にとっても挑戦になったんじゃないかな、と。脚本を務めた面も含めて、ただの恋愛だけでなくマージナルな生活を強いられる移民などに対する監督の切実な思いが込められていて、そういう細かい点にも是非注目して欲しい作品でした。これは、不倫ではなく、夫婦や親子の再生の物語です。
ちなみに原題の「Breaking and Entering」は「家宅侵入」という意味ですよね。うまく付けたと思います。